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「トレース水彩画」秘伝その5  感動を描く、だから写すのは感動



写真を撮る・選ぶ行程は絵を描く出発の行程であるとともに、絵そのものの出来を決める行程でもあります。
これまで私によせられたよくある質問をもとに、この行程でのポイントをQ&A形式で解明していきます。

Q.何を撮ったらいいのですか?

A.絵画初心者の方のよくある質問ですが、私は「描きたいものを撮ってください!」ということにしています。
従来の絵の描き方は、初心者はデッサンの壁があるため、デッサンが厳しく問われないモノ、たとえば静物や花から描き始めるのですが、「トレース水彩画」では初心者でも完璧なデッサンを描けますから、静物から風景画、肖像画までのどんなモチーフでも難易度に大差はありません。だから、「描きたいものを描く(撮る)!」のが正解です。

Q.どんな絵(写真)がいい絵なのですか?

A.絵は感動を表現するメデイアです。だから感動を表現できた絵がいい絵となるでしょう。
写真は絵を描くための素材ですから、感動を写真に撮ることになります。
つまり「感動を描く、だから写すのは感動」ということになるわけです。
感動とは、「美しい!」とか「かわいい!」とか「懐かしい!」とか「癒されるな〜!」とか 「!」マークがつくものです。
「描きたいものを撮ってください!」とさきほどお話しましたが、「描きたい!」という言葉の中には、すでに感動がインプットされているものです。あなたが素直に描きたいもの、感動するものを写真に収めるのが最短距離です。

Q.これまでカメラが趣味だったのですが、そのキャリアは生かせますか?

A.これまで写真を趣味にしてきた人は、「トレース水彩画」では圧倒的に有利です。
カメラテクニックもさることながら、テーマの見つけ方やまとめ方などの表現としての思考訓練がなされているのです。
それだけでなく、これまで撮った膨大な写真ストックがあり、写真としてはいまいちでも、絵の素としては新鮮な感動を呼ぶ素材があるに違いありません。
「トレース水彩画」を写真表現の延長と考えることもできるのではないかと思います。


Q.従来からのスケッチより、写真の機能を活用すれば、もっと絵の可能性が広がるのでは?

A.まったくその通りです。従来のスケッチは、外でスケッチブックを広げて、絵を描く場所の確保から苦労しなければなりません。
それに比較し、写真はカメラアングルも広角望遠自由自在、一瞬の動きも捕らえられます。
たとえば、スケッチ旅行では、せいぜい1日に2.3枚しか描けませんが、カメラだと自由に旅を満喫しなから相当数の写真を撮ることができます。

ちなみにこの絵は、散歩の途中で通りに面したディンギー(小型ヨット)置き場のドアが10センチばかり開いていたので、狭い隙間から覗き込むようにして撮った写真から描いたものです。だから、従来のスケッチでは、決してこの絵は描けないのです。

Q.どんな写真を選んだらいいのですか?

A.一言でいえば「感動がより表現されている写真」や、「主張が感じられる写真」を選ぶべきでしょう。
感動は主観的なものですが、絵は主観を具現化し第三者に伝達するメディアです。それには冷静で客観的な「読み」も必要とされます。
初心者の方で、選んだ写真を正確に描いても、つまらない絵にしかならないケースを何度も見ました。つまり写真を選ぶとき、自分の力量をも加味しながら、出来上がりを想定して選ぶことが大切です。

Q.どんなカメラがいいですか?

A.具体的には84ページで紹介しましたが、なんといってもデジカメです。遠慮なくどんどんシャターを押せるのがいいですね。
しかもパソコンとつなげば、大きな力を発揮するのも魅力です。

私は何台かのデジカメを持っていますが、最もよく使用するカメラは、ポケットに入る小型カメラです。気軽に持ち歩くには性能よりも丈夫な小型軽量というところでしょうか。

Q.撮影するときのポイントは?

A.写真は最終作品ではなく絵のための素材です。だから撮影テクニックと言っても、常時オートに設定し、ボタン操作といってもズームとシャッターだけしか触りません。
簡単な操作のほうが、絶好のシャッターチャンスを見逃さず素早く写せるのです。むしろ技術よりも、写真を写すときに、「何に感動し、何を表現したいからシャッターを押すのか?」をしっかり自己確認することこそ、はるかに重要です。
もうひとつの重要ポイントは、対象物にグッと近づいて撮ること。そして、余計なものを思い切り省略して撮ること。これらをつねに心がけるようにしましょう。

(Qどんなカメラがいいですが? の項をP84とダブルため省略)